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第10回 東北家族性腫瘍研究会
学術集会プログラム・抄録集

平成19年1月 27日(土) 仙台国際センター
14時30分 ? 17時15分
(14時より受付・開場いたします)


14:30?14:35 開会のあいさつ
東北家族性腫瘍研究会事務局 野水 整

14:35?15:05 一般演題
                       座長  北村正敏
(1) NF1および完全内臓逆位症に合併した検診発見非触知乳癌の1例
                  星総合病院外科   鈴木興太
(2)27年間追跡したHNPCCの1例
                大原医療センター外科  小池哲史
(3)家族性大腸腺腫症および多発性大腸ポリープ患者における
   SCアッセイを用いたAPC遺伝子診断
         東北大学加齢医学研究所癌化学療法  増子さつき

15:10?16:05
特別講演(1)
                        座長 石岡千加史
「遺伝医療普及のための信州大学遺伝子診療部の取組み」
信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野 助教授
    櫻井晃洋  先生 

16:10?17:05
特別講演(2)                                
                        座長 竹之下誠一
「癌遺伝学と共に歩んだ半世紀を省みて」
兵庫医科大学名誉教授、日本家族性腫瘍学会名誉理事長
    宇都宮譲二 先生


17:05?17:10 会長あいさつ
東北家族性腫瘍研究会 会長  竹之下誠一

17:10?    閉会のあいさつ
                       事務局  野水 整



一般演題


NF1および完全内臓逆位症に合併した検診発見非触知乳癌の1例

星総合病院外科/病理診断科

鈴木興太、片方直人、室 孝明、佐久間威之、山田睦夫、渡辺文明、
野水 整、山口佳子

 NF1と完全内臓逆位症に合併した非浸潤性乳管癌の非常に珍しい症例を経験し報告した。
 症例は、平成17年マンモグラフィ乳癌検診でカテゴリー4の微細石灰化を指摘されA病院を受診したが、精査の結果異常なしと言われた。平成18年マンモグラフィ乳癌検診でカテゴリー5の微細石灰化を指摘されB病院受診、精査の結果乳癌と診断され、治療のために当科を受診した。癌の進展範囲が広いため乳房切除を施行した。病理は非浸潤癌であった。
 NF1合併乳癌はその特徴的な皮膚結節のため病悩期間が長いこと、さらに腫瘍の触知が困難で、病変の発見が遅れがちであることより進行癌が多いとされている。特に今回は検診で発見された非浸潤性乳癌であり、検索した限りでは本邦では1症例報告があるのみであった。さらに完全内臓逆位症も合併した症例は自験例が1例目かと思われる。



一般演題

27年間追跡したHNPCCの1例

大原医療センター外科
小池哲史、吉田典行、鈴木 聡
みずの内科
水野兼志
大原綜合病院病理部
内海康文
星総合病院外科
佐久間威之、野水 整
栃木県立がんセンター研究所
菅野康吉
東北家族性腫瘍研究会
竹之下誠一

N家系は、実に45年間にわたり大腸癌の治療に関わってきた。しかしながら、HNPCC家系として追跡を始めてから、25年間もの間、アムステルダム診断基準合致例かつMSI陽性例であるにもかかわらず、Long Distance PCR(LD-PCR)法あるいはRT-PCR/direct sequencing法を施行しても、Exon-Intron接合部を含む翻訳領域にMLH1、MSH2遺伝子の生殖細胞系列変異が認められなかった。N家系の発端者と、その血縁者に、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification (MLPA)法を施行し、異常の有無を解析した。MLPA法は、標的遺伝子に相補的な遺伝子配列をもつプローブを相対的に増幅させ定量し、ゲノムの比較的広範な領域に生じた遺伝異常を検出する方法である。MLPA法による解析の結果では、発端者と、その血縁者ともに、エキソン由来のシグナルの減少を認め、MLH1のexon4-19の欠失であった。
今回、発端者に第4癌として直腸癌が発見され手術したので、発端者を中心に家系の報告をしたい。発端者は47歳直腸癌、54歳S状結腸癌、59歳子宮体癌で手術をしている。81歳時(今回)、福島市の大腸癌検診で便潜血陽性をきっかけに大腸癌を発見され低位前方切除を受けた。



一般演題

家族性大腸腺腫症および多発性大腸ポリープ患者におけるSCアッセイを用いた
APC遺伝子診断

1東北大学加齢医学研究所・癌化学療法研究分野、
2東北大学病院・腫瘍内科、3・仙台医療センター・腫瘍内科
増子さつき1、酒寄真人3、高橋雅信1,2、下平秀樹1,2、石岡千加史1,2


我々は酵母を用いたAPC遺伝子のSCアッセイを確立し、東北大学腫瘍内科への紹介患者に対し、遺伝子診断およびカウンセリングを行ってきた。2001年以降は16名の患者の診断を行った。16名のうち発端者が14名、変異検出後の家系内の保因者診断が2名であった。14名の発端者のうち100個以上のポリープを認めた症例は9名、明らかな家族歴のあるものは4名であった。APC遺伝子にヘテロ接合性の胚細胞性変異を認めたものは5例であった。変異症例はいずれも100個以上のポリープがあったが、家族歴のあるものは2例だけであった。保因者診断では2例とも発端者の変異を有していなかったためにカウンセリングは円滑であったが、APC遺伝子変異症例であっても家族の保因者診断の同意までに至らないことがあった。





特別講演(1)


信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野 助教授
 (遺伝子診療部兼務,加齢総合診療科兼務)
櫻井晃洋  先生


「遺伝医療普及のための信州大学遺伝子診療部の取組み」

信州大学遺伝子診療部は1996年に設置され,昨年で10周年を迎えたが,単に遺伝カウンセリングを行う診療部としてだけでなく,ホームページを通じての一般向けおよび医療者向けの遺伝情報の発信,遺伝医学教育,国内の遺伝医療体制整備に関する情報提供など広い領域で活動している.遺伝医療はいまだに一部の患者のための特殊な医療という誤った認識が一般的である.腫瘍に限らず多くの疾患領域で遺伝学的情報が利用される時代を迎え,遺伝に関する正しい知識・意識を医療者も一般市民も持つ必要がある.今回は遺伝に関する正しい知識の普及のためにわれわれが取り組んでいる内容について紹介したい.



特別講演(2)


兵庫医大名誉教授
宇都宮譲二 先生


「癌遺伝学と共に歩んだ半世紀を省みて」

2003年ヒトゲノム・シーケンスが完結し、予知予防医療へのパラダイムシフトが現実のものとなった。それはDNA二重螺旋構造発見50周年記念にもあたる。私は7年目の1960年ニューヨークMSKIで対癌戦略改革の現場に遭遇し癌DNAによる発癌性の研究を担当し、帰国後FAP研究を開始した。私の「癌遺伝学台頭期」である。1970年、Knudsonは小児癌臨床疫学でAnti-oncogene two hit theoryを発表し、私はPolyposis Centerを発足させて癌遺伝疫学の実践を世界でも最も早く実行した。その過程で機能温存式大腸全摘術を開発に成功した。1983年、兵庫医大に移転した年RB遺伝子が、1987年にはFAP遺伝子locusが判明した。そこで1989年Lynchと共に神戸で国際遺伝性大腸鴈会議を開催した。この時期は「分子医学黎明期」といえる。これを契機に1992に中村(祐)らがAPC、1993年には三木らがBRC1の同定に成功し新医療(分子医療)が開幕した。私はその導入に適した研究・診療インフラ構築を担当して1995年、家族性腫瘍研究会を郡山で野水博士と共に発足させて倫理ガイドラインの提案、専門カウンセラー養成セミナー開催等を推進し、2000年癌研に家族性腫瘍センターを発足させた。「分子医学発足期」である。Postgenomicsでは、早期がんの発見にProteomicsの臨床応用が主体となる。そこでTR研究者の養成を目指してNPOBCPRを立ち上げた。叶わぬ夢であった癌原因遺伝子の同定の研究に参加し得たこと、InSightが結成され、わが国で3月に岩間博士よって開催され参加できる事の幸運に只感謝しつつ。