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第11回 東北家族性腫瘍研究会
学術集会プログラム・抄録集


平成20年1月 26日(土) 仙台国際センター
13時55分 ? 16時55分
(13時30分より受付・開場いたします)

13:55?14:00 開会のあいさつ
東北家族性腫瘍研究会事務局 野水 整

14:00?15:05 一般演題
                       座長  鈴木眞一
(1) MEN2Bの一治験例
        福島県立医科大学第2外科内分泌外科   小池哲史
(2) MEN1型に合併した胸腺腫瘍の2例
        福島県立医科大学第2外科内分泌外科  大河内千代
(3) MLPA法で遺伝子変異が確認された家族性大腸腺腫症の1家系
                  星総合病院外科   安斉めぐみ
(4) MLH1intron 9のsplice donor siteに変異を認めたHNPCCの一家系
         東北大学加齢医学研究所癌化学療法   高橋雅信
(5) がんの遺伝外来におけるチームアプローチの歩み
     福島県立医大附属病院がんの遺伝外来  角田ますみ
15:05?15:35
研究会報告
                        座長  野水 整
「東北地方における家族性大腸腺腫症の遺伝子診断」
        星総合病院外科・東北家族性腫瘍研究会  門馬智之
15:40?16:45
特別講演(                                
                        座長 竹之下誠一
「遺伝医学史と細胞遺伝学:腫瘍遺伝学との関わり」
       東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科・非常勤講師
        (元・東京医科歯科大学難治疾患研究所)
                         池内達郎 先生


16:45?16:50 会長あいさつ
東北家族性腫瘍研究会 会長  竹之下誠一
16:50?    閉会のあいさつ、
                       事務局  野水 整






一般演題


MEN2Bの一治験例

福島県立医科大学外科学第2講座内分泌外科、内分泌内科*

小池哲史、鈴木眞一、角田ますみ、立花和之進、大河内千代、中野恵一、福島俊彦、竹之下誠一、緑川早苗*、橋本重圧*、渡辺毅*

【はじめに】多発内分泌腺腫症2B(MEN2B)は稀な疾患であり、MEN2の約5%を占める。今回われわれは遺伝子診断を行いMEN2Bと確定診断し治療した症例について報告する。【症例】40歳男性。30歳頃より高血圧、糖尿病の診断にて近医で加療されていた。2007年の健診時に腹部エコーで両側副腎腫瘍を指摘され当院内分泌内科で精査の結果、両側褐色細胞腫と診断された。既往歴に甲状腺良性腫瘍の手術歴があり、髄様癌を疑い精査した結果、残存甲状腺の髄様癌が発見された。遺伝子検索の結果、RET exon16,codon:918の変異が陽性であり、MEN2Bと確定診断された。両側副腎摘出術を先に施行し、残存甲状腺切除術+頚部リンパ節郭清を行った。術後、血圧は正常化しCEA、カルシトニンも正常化し経過観察中である。【まとめ】MEN2Bは稀であり、本症例でも初回手術時に髄様癌の告知がなく、10年以上MENとしての発見が遅れた。遺伝カウンセリングを含めた十分な説明が必要と思われた。




一般演題


MEN1型に合併した胸腺腫瘍の2例

福島県立医科大学外科学第2講座内分泌外科、内分泌内科*

大河内千代、鈴木眞一、立花和之進、小池哲史、津田守弘、良元紳浩、中野恵一、旭修司、福島俊彦、竹之下誠一、緑川早苗*、橋本重圧*、渡辺毅*


 多発性内分泌腫瘍(MEN)1型にはカルチノイドを合併することがあり、とくに胸腺カルチノイドの約10%をMEN1が占めている。胸腺カルチノイドは予後不良であり、発見時には切除不能な場合も少なくない。今回我々は、MEN1でフォロー中に胸腺腫瘍を発見し治療をした2症例につき報告する。
 症例1、50歳男性、8年前にMEN1と診断され副甲状腺全摘術施行。最近前胸部から背部痛を訴えるも原因不明であった。その後胸部X線写真で縦隔陰影の異常を指摘され、精査の結果胸腺カルチノイドの診断であったが、胸骨正中切開による手術を試みたが、腫瘍はすでに周囲大血管を巻き込むように進展し浸潤が強く切除不能と判断した。術後放射線治療およびソマトスタチン誘導体の使用にて保存的に経過観察し、術後31ヶ月で永眠した。
 症例2、56歳、男性。昨年MEN1と診断され、副甲状腺全摘、甲状腺左葉切除+D1施行後の精査の胸部CTで前胸部に43x29mmの腫瘍を認め胸腺カルチノイドが強く疑われ、胸骨正中切開にて切除を試み、胸腺全摘、胸膜合併切除で腫瘤を切除しえた。術後病理結果では3B胸腺腫であり、術後追加照射を施行した。
 両症例ともに、下垂体、膵、副腎に病変を認めているが、現在は胸腺腫瘍が最も重要な予後規定因子となっている。さらに両家系ともMEN1症例が5名、8名と多く、今後のサーベイランスとして胸腺病変も想定しなければならないと思われた。



一般演題


MLPA法で遺伝子変異が確認された家族性大腸腺腫症の1家系

星総合病院外科

安斉めぐみ、門馬智之、萩原純、室孝明、佐久間威之、山田睦夫、片方直人、渡辺文明、野水 整


家族性大腸腺腫症(FAP)は常染色体優性遺伝性疾患で原因遺伝子は5番染色体長腕上のAPC遺伝子である。そのポリープは高率に癌化するのが特徴である。我々が関係するFAP遺伝子診断研究グループでは、これまで、遺伝子診断はPTT法によりスクリーニングし、変異のあった部位をシーケンスして確認してきた。この方法では、1塩基置換による停止コドンの出現(ナンセンス変異)や数塩基の挿入/欠失のフレームシフト変異によるタンパク質切断型の変異を確認することが可能であるが、臨床的にFAPと診断されても、これらの方法で全例を遺伝子診断することはできなかった。それで、遺伝子診断陰性の例には、最近発見されたもう一つの原因遺伝子であるMYH遺伝子やAPC遺伝子の大規模な欠失を同定するMLPA法を導入して診断している。今回、55歳の男性を発端者とする従来のAPC遺伝子診断陰性のFAP家系に、MLPA法でAPC遺伝子変異を確認したので報告する。発端者は全大腸に約600個のポリープを有するFAPで、患者の希望により半年に1回CFを施行しEMRを繰り返している。これまで、切除したポリープに腺腫内癌が発見されてはいるが、進行癌はいまのところ発見されてはいない。



一般演題


MLH1 intron 9のsplice donor siteに変異を認めたHNPCCの一家系

高橋雅信1、古川洋一2、下平秀樹1、酒寄真人3、森谷卓也4、森谷宜皓5、吉田輝彦5、金子聰5、中村祐輔2、石岡千加史1

(1東北大学加齢医学研究所癌化学療法研究分野、2東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター、3仙台医療センター腫瘍内科、4東北大学病院病理部、5国立がんセンター)

症例:25歳男性。大腸内視鏡検査にてS状結腸に4cm大のIspポリープを認め、生検にてadenocarcinoma with adenomaと判明し、当院胃腸外科にて6月に腹腔鏡下補助S状結腸切除術を施行した。家族歴からHNPCCと考えられ、遺伝子診断目的で当科紹介となった。
家族歴:父が34歳、父方の叔母が54歳、父方の祖父が41歳で大腸癌を発症しており、Amsterdam Criteria Tを満たすHNPCC家系と判断した。
遺伝子解析:当大学倫理委員会の承認のもと、大腸癌研究会HNPCCの登録と解析プロジェクトに登録し、MLH1、MSH2、MSH6遺伝子のシークエンス解析を行った。MLH1 のintron9のsplice donor siteに一塩基置換(c.790+5 G>A)と、既に報告されたことのある6種類の一塩基置換(MSH2; c.211+9 C>G, c.1661+12 G>A, MSH6; c.116 G>A(p. G39E), c.186 A>C( p.R62R), c.3306 T>A(p.T1102T), c.3488 A>T(p.E1163V))を認めた。MLH1のc.790+5 G>Aの病的意義を検討するために、機能的スプライシング解析を行った。c.790+5 G>Aの変異型では、野生型と比較してexon9のskippingが高率であった。また免疫組織染色にてMLH1の発現低下を認めた。以上より、この変異は病的異常を引き起こすものであることが示唆された。



一般演題


がんの遺伝外来におけるチームアプローチの歩み

角田ますみ1)2)、鈴木眞一1) 3)、中野恵一 3)、旭 修司 3)、福島俊彦 3)、野水整1) 4)、竹之下誠一3)

1)福島県立医科大学医学部附属病院がんの遺伝外来、2)東邦大学医学部、3)福島県立医科大学医学部外科学第2講座、4)星総合病院外科 

当院は、家族性腫瘍ネットワークの東北地方拠点施設として、がんの遺伝外来を行っている。現在では、医師と家族性腫瘍遺伝カウンセリングの養成をうけた非医師職による協働体制で遺伝カウンセリングを行っている。
非医師職が加わりチームアプローチが可能となることで、遺伝子診断の意思決定から、その後の予防・早期発見にむけての身体的・精神的支援体制が整うことは、患者の今後のQOL維持に大きく貢献すると考えられる。
今回は遺伝カウンセリングに難渋した事例、特に未成年者や判断能力の不確かな成年者の事例をもとに、遺伝子診断の意思決定への支援を通して、当院におけるがんの遺伝外来での遺伝カウンセリングの取り組みを紹介しつつ、遺伝外来におけるチームアプローチの重要性について述べる。




研究会報告

東北地方における家族性大腸腺腫症の遺伝子診断

星総合病院外科
門馬智之、
東北家族性腫瘍研究会
野水 整、石岡千加史、竹之下誠一、阿部力哉

家族性大腸腺腫症は、常染色体優性遺伝を示す遺伝性腫瘍性疾患であり、主たる原因遺伝子は第5染色体上のAPC遺伝子である。本症にみられるポリープは癌化が高率であり生涯癌化率は95%を越える。しかし、ポリープ数、癌化年齢、進行度などの表現型は一定ではなく、ある程度、遺伝子型の違いに対応することが明らかになりつつある。そして、遺伝子型は、術式の選択、手術時期の選択にも有用であるとの推測がなされている。遺伝子診断の有用性と治療選択状の問題点について考察した。遺伝子診断を目的に東北家族性腫瘍研究会に登録された、家族性大腸腺腫症45家系の検討を行った。遺伝子検査施行例は、発端者45名、血縁者56名の計101名である。遺伝子検査の結果は、変異確定35家系、未確定8家系、検査中2家系である。変異が確定した35家系では、APC遺伝子のナンセンス変異7家系、フレームシフト21家系、大規模欠失1家系、モザイク1家系、PTT法のみ5家系であった。変異未確定の7家系では、APC遺伝子MLPA法やMYH遺伝子、MMR遺伝子なども変異を確認できなかった。密生型関連領域を大きくはずれる遺伝子変異の症例では、臨床所見を鑑みた上で、治療としてさまざまなオプションが採用できると考えたが、問題点も多い。なお、遺伝子診断に際してはヒトゲノム遺伝子解析研究に関する倫理指針を遵守して行った。遺伝子診断解析は、国立がんセンター研究所がん情報部吉田先生、東北大学加齢研癌化療石岡千加史先生、旧大塚アッセイAPC遺伝診断研究開発グループ、癌研究所生化学部(現東京大学医科研)中村祐輔先生にお願いした。
この研究のために、症例を御紹介いただいた病院は東北6県にわたる下記の病院である。八戸赤十字病院、岩手医科大学病院、岩手県立中央病院、岩手県立二戸病院、岩手県立釜石病院、中通総合病院、山形大学病院、山形県立中央病院、置賜総合病院、米沢市立病院、三友堂病院、公立高畠病院、石巻市立病院、福島県立医大病院、磐城共立病院、福島労災病院、社会保険福島二本松病院、太田西ノ内病院、太田熱海病院、坪井病院、星総合病院、杏雲堂病院。




特別講演


「遺伝医学史と細胞遺伝学:腫瘍遺伝学との関わり」

池 内 達 郎 先生

東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科・非常勤講師
(元・東京医科歯科大学難治疾患研究所)


Genetics (W. Bateson, 1905)という概念は,heredity とvariation を研究対象とする領域として提唱されたが,わが国では「遺伝学」と邦訳されたため,heredity とgeneticsの使い分けが難しい局面によく遭遇する。「遺伝学は,遺伝 (heredity) の仕組みばかりでなく,多様性 (variation) を研究する学問領域である」とする認識が,学校教育や医学教育に反映されなければいけない。
細胞遺伝学(cytogenetics:cytology とgeneticsの合成語)は,メンデルの唱えた“遺伝の単位(後の遺伝子)”が細胞分裂期に観察される染色体上に存在することが明らかにされた経緯の中で生れた学問領域である。ここでは,減数分裂での遺伝的多様性の産生,DNAから染色体への成り立ち,その解析精度など,遺伝学を理解する上で染色体の行動と構造を知ることの重要性を述べる。そして染色体突然変異(染色体異常)に基づく様々な疾患(先天疾患や癌)について過去半世紀にわたる研究の概略を解説する。とくに,腫瘍発生の起因となる体細胞レベルでの染色体異常については,癌抑制遺伝子や癌遺伝子の異常に繋がる染色体の構造異常(欠失や転座,重複)とともに,染色体の数的異常(異数性)の重要性についても述べる。とくに,高発癌性遺伝疾患のひとつであるPCS(染色分体早期解離)症候群(異数性細胞とウィルムス腫瘍が好発)について最近の知見を紹介する。