第13回 東北家族性腫瘍研究会 学術集会プログラム・抄録集 平成22年1月 23日(土) 仙台国際センター 13時40分 ? 17時05分 (13時00分より受付・開場いたします) 一般演題は、発表8分、討論4分を予定しています。 特別企画は2時間を予定しています。 |
13:40?13:45 開会のあいさつ 東北家族性腫瘍研究会副会長 石岡千加史 13:45?14:50 一般演題 座長 野水 整 (星総合病院外科・がんの遺伝外来) (1)BRCA2関連家族性乳癌の検討 星総合病院外科・乳腺外科 野水 整 (2)繰り返す皮膚病変から診断に至ったMuir-Torre 症候群(HNPCC) の1例 岩手医科大学病理学講座病理病態学分野 赤坂季代美 (3)Muir-Torre症候群の1例 星総合病院外科 立花和之進 (4)悪性末梢性神経鞘腫を併発した神経線維症の2例 東北大学加齢医学研究所癌化学療法研究分野 下平秀樹 (5)妊娠後期に診断されたMEN2Aの1治験例 福島県立医科大学内分泌甲状腺外科 菊地大輝 15:00?17:00 特別企画 「多発性内分泌腫瘍症東北シンポジウム」 1.よりよいMEN診療実現のために 櫻井晃洋(信州大) 2.MEN1の診断と治療 鈴木眞一 (福島医大) 3.MEN2の診断と治療 内野眞也(野口病院) 4.患者の立場から 患者代表 5.東北家族性腫瘍ネットワークとの連携 野水 整 6.まとめ 17:00?17:05 会長あいさつ 東北家族性腫瘍研究会 会長 竹之下誠一 17:05? 閉会のあいさつ 事務局 野水 整 一般演題 BRCA2関連家族性乳癌の検討 星総合病院外科・乳腺外科 野水 整、松嵜正實、安藤 仁、立花和之進、佐久間威之、片方直人、 渡辺文明 星総合病院病理診断科 山口佳子 BRCA2遺伝子に病的変異が認められた家族性乳癌6家系を報告する。家系1は同胞2名と母の3名の乳癌。Exon21codon2893X(stop codon)。発端者とその同胞の子供の世代に保因者診断を行い、5年後保因者の中から1名の両側乳癌が発症した。第1度近親に前立腺癌1名発症した。家系2は同胞中に4名の乳癌がおり、1名は胃癌との重複、第1度近親に胃癌1名(父)、膵癌1名。Exon11に5b欠失がありcodon2173にstop codonが出現。家系3は同胞2名(1名は33歳若年者乳癌)と父方おばに乳癌。父方おじに前立腺癌、その娘に乳癌。Exon11に4bの欠失がありcodon1075にstop codonが出現。家系4は同胞2名と母と母方おばの4名に乳癌。P3039P(9345G>A)。この変異はExon23の末尾で起こった1塩基置換でアミノ酸置換は起こさないがexon23とexon24のmRNAスプライシングに影響を与え正常なBRCA2タンパク合成を阻害するといわれている病的変異である。家系5は4世代に6名の乳癌。Exon11に1bの欠失がありcodon1908にstop codonが出現。家系6は3世代に5名の乳癌、1名の卵巣癌。Exon11codon1882X。これら6家系の24名の乳癌では、40歳代、50歳代の発症が多く、両側乳癌は3名、家系内発生癌では前立腺癌2名、胃癌3名。当科手術例9例の検討では、病理組織学的特徴はなく、同一家系では内分泌反応、HER2など同じ傾向があったが、家系が異なると様々であった。乳癌家族歴濃厚家系ではBRCA遺伝子診断が有用である。 一般演題 繰り返す皮膚病変から診断に至ったMuir-Torre 症候群(HNPCC) の 1例 岩手医科大学病理学講座 病理病態学分野 赤坂季代美、及川浩樹、佐藤孝、前沢千早、増田友之、 岩手医科大学 形成外科学講座 樋口浩文、 岩手医科大学 皮膚科学講座 赤坂俊英、 岩手県立釜石病院 外科 吉田徹、 栃木県立がんセンター 菅野康吉、 星総合病院外科 野水 整 Muir-Torre 症候群(HNPCC の亜型)の一家系を経験したので報告する。 症例は50歳代の男性。40歳代で右肘の有棘細胞癌、50歳代で左頬部の有棘細胞癌、ケラトアカントーマ、左上腕部のケラトアカントーマ、右尿管癌および大腸ポリープを発症した。1年前に鼻背に5 mm大のドーム状に隆起した淡紅色小結節を認め、ケラトアカントーマと診断した。同一標本内の健常皮膚側に脂腺癌も認められ、Muir-Torre 症候群(HNPCC の亜型)を疑った。そこで家族歴の調査を行うと父が42歳で大腸癌、祖母が33歳で大腸癌を発症していることが明らかとなりAmsterdam Criteria II を満たすMuir-Torre 症候群と診断した。鼻背部皮膚腫瘍部のMLH1、MSH2 の免疫組織染色ではMSH2 の染色強度の減弱が認められMSH2 の異常が示唆された。また、microsatellite instability (MSI) を解析したところMSI−H と判定された。末梢血からDNA を採取し遺伝子のシークエンシング解析を行っているが、現在のところ原因遺伝子変異の同定には至っていない。 Muir-Torre 症候群はHNPCC のバリアントとされ、皮脂腺腫瘍と内臓悪性腫瘍が合併するものである。本症例では繰り返す皮膚腫瘍からMuir-Torre 症候群 の診断に至った。文献的考察も加え報告する。 一般演題 Muir-Torre症候群の1例 星総合病院外科1)、同 皮膚科2)、同 病理診断科3) 立花和之進1)、門馬智之1)、安藤 仁1)、佐久間威之1)、 松嵜正實1)、片方直人1)、渡辺文明1)、古川裕利2)、 山口佳子3)、野水 整1) Muir-Torre症候群(以下、MTS)は脂腺系腫瘍と内臓悪性腫瘍を合併する特徴を持つ遺伝性疾患である。これまで、欧米では多数の報告があるが本邦での報告は比較的少なく40例ほどの報告があるにすぎない。本症候群の病因はDNAミスマッチ修復遺伝子の異常が原因とされている。 症例は、既往に22年前を初回手術とする大腸癌手術歴が3回あり、平成16年にはHNPCCの診断にて大腸亜全摘術を施行されている55歳の男性。平成20年6月に顔面、前胸部および背部に丘疹、皮下結節が出現し、脂腺腺腫および脂腺癌の診断となりMTSと診断した。初回手術時の、22年前の大腸癌標本を用いたマイクロサテライト不安定性(MSI)解析を行ったところMSI-Hを示した。末梢血を用いた遺伝子検索にてDNAミスマッチ修復遺伝子の一つであるhMSH2の胚細胞変異を認めた。その後、平成20年12月に背部の結節の増大あり、切除術施行したところ有棘細胞癌であった。皮膚腫瘍(脂腺腺腫、脂腺癌、有棘細胞癌)、大腸癌の免疫染色を行ったところ、いずれものhMSH2蛋白の欠失を認めた。これまでの本邦報告例を含め、文献的考察を加え報告する。 一般演題 悪性末梢性神経鞘腫を併発した神経線維症の2例 東北大学加齢医学研究所・癌化学療法研究分野、 東北大学病院・腫瘍内科 下平秀樹、添田大司、高橋信、大堀久詔、角道祐一、 加藤俊介、石岡千加史 【症例1】55歳女性、24歳のとき神経線維腫症1型と診断。家族歴なし、NF1遺伝子の変異あり。2001年6月左頸部の腫瘍による麻痺が出現し、当院耳鼻科にて腫瘍部分切除を施行され悪性末梢性神経鞘腫と診断された。2006年2月に四肢麻痺が出現し、頸部の残存腫瘍が椎間孔から脊柱管内に入り脊髄を圧迫しているとして2月当院整形外科にて脊柱管内の腫瘍切除し除圧および脊椎固定を施行された。残存腫瘍および肺転移に対する化学療法目的に当科紹介された。1次治療として2006年8月よりエトポシド+カルボプラチン療法を6コース施行したが、2007年2月のCTで両側肺下葉への転移が出現しPDと判断された。2次治療として2月下旬よりアドリアマイシン+イホスファミド療法2コース施行し、経過中一部の肺転移で縮小みられるも最終的にPDとなった。3次治療として、ジェムシタビン+ドセタキセル療法に変更したが好中球減少のため継続できず中止となった。9月初めより姑息的に肺転移への照射を開始するも、肺転移は増大し、緩和医療の方針となった。 【症例2】54歳男性、家族歴あり。以前より神経線維腫症と診断されていた。2006年頃より左下肢後面のしびれを自覚し症状増強したため2007年12月近医受診するも原因不明であった。2008年5月外傷による左大腿骨頸部骨折、左踵骨骨折にて手術施行、その際に左坐骨部に腫瘍を指摘された。そこで9月下旬腫瘍摘出術施行され、悪性末梢性神経鞘腫と診断された。2008年12月左大腿部の痛みのため、精査行い局所再発を指摘されたため2009年3月初旬、広範囲切除および人工関節置換術施行された。2009年10月のCTにて肺転移、PETにて肺、骨に転移を指摘され、11月初旬化学療法目的に当科紹介。11月16日よりアドリアマイシン+イホスファミド療法開始、現在2コース終了し、治療効果判定を行うところである。 【考察】神経線維腫症の4%において悪性末梢性神経鞘腫を発症するとされている。一方、悪性末梢性神経鞘腫の50-60%は神経線維腫症1型を伴っているとされ、神経線維腫症1型は悪性末梢性神経鞘腫のもっとも重要な危険因子といえる。切除不能の悪性末梢性神経鞘腫に対する化学療法は1次治療としてアドリアマイシン+イホスファミド療法、2次治療は根拠が乏しいがジェムシタビン+ドセタキセル、エトポシド+カルボプラチン療法が考えられる。しかし、化学療法に対する反応性は神経線維腫症を伴う場合の方が伴わない場合より悪いとされており、本2症例も治療困難例といえる。今後、分子標的薬による臨床試験の結果が期待される。 一般演題 妊娠後期に診断されたMEN2Aの1治験例 福島県立医科大学医学部附属病院、乳腺・内分泌・甲状腺外科1)、 同糖尿病・内分泌・代謝内科2)、同低侵襲・最先端外科3) 菊地大輝1)、鈴木眞一1)、津田守弘1、鈴木興太1)、大河内千代1)、 中野恵一1)、福島俊彦1)、本間美優樹2)、緑川早苗2)、橋本重厚2)、 渡辺毅2)、竹之下誠一3) MEN2Aでは甲状腺髄様癌と褐色細胞腫を認め、常染色体優性遺伝形式をとる疾患であるが、今回は妊娠後期に同胞がMEN2Aであることが判明し、精査した結果、MEN2Aであった1例につき報告する。 症例、30歳代、女性。当院産科に通院中。妊娠31週にはじめて兄がMEN2Aであり、いずれ精査を受けるようにいわれたと、主治医に説明し、糖尿病内分泌代謝科を受診し、両側の甲状腺腫大はあるも高血圧は既往も含めて認めなかった。精査の結果カルシトニン10914ng/ml、CEA902ng/mlと高値を認め、RET遺伝子変異も認めた。さらに尿中カテコールアミン高値髄様癌と褐色細胞腫を認めた。MRIでも左副腎に1cmの腫瘍を認め、αブロッカーで術前コントロール後、妊娠37週に帝王切開による分娩施行(3238g)。術中高血圧発作出現なく経過。出産後CT、I-MIBGシンチ等で精査後約3週間後に腹腔鏡下左副腎摘徐術施行した。周術期経過良好であった。術後血圧は100?120台で安定し、カテコラミン値も正常化した。術後髄様癌の精査を行い、右葉には60mm、左葉には17mm、15mmの結節を認め、さらに両側頸部リンパ節も腫大していた。出産後約7週間後に甲状腺全摘術、D3bを施行した。術後経過は良好で、現在が来通院中である。 MENの家族歴があるにもかかわらず、妊娠後期まで本疾患が発見されなかった点について、カウンセリングや国内の専門家への連携についても検討したい。 特別企画 共催 東北家族性腫瘍研究会 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 「わが国における多発性内分泌腫瘍症の診療実態把握と エビデンスに基づく診療指針の作成」研究班 後援 東北内分泌研究会 「多発性内分泌腫瘍症東北シンポジウム」 司会 鈴木眞一 1. よりよいMEN診療実現のために 信州大学医学部遺伝子診療部 櫻井晃洋 2. MEN1の診断と治療 福島県立医科大学内分泌甲状腺外科 鈴木眞一 3. MEN2の診断と治療 野口病院外科 内野眞也 4. 患者の立場から 患者代表 5. 東北家族性腫瘍ネットワークとの連携 東北家族性腫瘍研究会事務局 野水 整 6.まとめ |